入試・資格分析
Source Analysis / 2009—2025

入試の英文は
どこから来るのか

大学入試の問題冊子には、英文の末尾に小さく出典が刷られていることがあります。それを17年分・全国306大学から集めて数えました。誰が書いた、どの媒体の、いつの文章が入試に選ばれているのか。──そしてその文章は「何か月前」に世に出たのか

CITATIONS
UNIVERSITIES
2009—2025EXAM YEARS
MEDIAN LAG (MONTHS)
01

このデータについて

全国の大学入試英語の問題本文そのものから、「出典」「Adapted from」などの表記がある行を機械的に拾い、著者・媒体・書名・執筆年に分解しました。出典を書く大学と書かない大学があるので、これは「入試英文の全体像」ではなく「出典を明記した入試英文の全体像」です。

集め方

  1. 2009〜2025年の全国大学入試英語(大問単位)の本文を走査する
  2. 「出典/出所/典拠」「Adapted from」「Source:」等を含む行を抜き出す
  3. 各行を 著者 / 媒体 / 出版社 / 書名・記事名 / 執筆年 に分解する
  4. 執筆年と出題年の差を「ラグ」として集計する

出典を書く大学は増えている

長めの英文(1,500字以上)を含む大問のうち、出典が刷られているものの割合です。2009年の26.4%から2025年には44.3%へ。著作権への意識の変化がそのまま出ています。

02

媒体ランキング

新聞・雑誌・放送・ウェブ媒体を正規化して数えました。媒体・著者・書籍の3つとも上位20位に揃えてあります。10件以上使われた媒体はあり、この表はその上澄みです。「1年以内」は執筆年と出題年の差が1年以下の割合。入試は1〜2月に実施されるので、差が1年=実質「前年に出たばかりの文章」です。

#媒体分類 出典数大学数 ラグ中央値1年以内 10年以上2021-252009-14

読み方:右2列は同じ媒体の前半6年と直近5年の件数です。The Guardian は25→105件、The Conversation は0→24件と伸び、逆に The Japan Times は100→90件と横ばい。直近5年だけを見ると The New York Times(119件)が The Japan Times(90件)を上回ります。日本の英字紙中心だった時代から、英米のオンライン記事に軸足が移っています。

03

著者ランキング

上位20名です。10件以上引用された著者は名しかおらず、20位でも8件。5件以上まで広げても名で、名前を拾えた著者は名(抽出ベース)に及びます。つまり入試の出典はきわめて散らばっており、「頻出著者」と呼べる人はごく一握りです。

#著者種別 出典数大学数 ラグ中央値出題年よく出る作品

1位の David Crystal は42件・32大学で2位以下を大きく引き離します。言語学の一般向け入門書を大量に書いている人で、『A Little Book of Language』『English as a Global Language』が繰り返し使われる。「英語という言語そのものを論じた平易な英文」は入試ときわめて相性が良いということです。Peter Trudgill・Deborah Tannen も言語学者で、20名中3名が「ことばの本」の書き手
Samantha Loong と Tan Ying Zhen は The Japan Times ST(学習者向け英字紙)のコラムニストで、書籍ではなく連載が拾われています。17位以下に Andrew E. Bennett・David Bohlke といった大学英語教材の著者が入ってくるのも、20位まで広げて見えてくる特徴です。

04

書籍ランキング

同じ本が複数の大学・年度で使われた回数です。こちらも上位20位。10件以上はわずか1冊、20位まで下がると4件しかありません。5件以上は冊、収録した書名は全種。本は基本的に「一点物」で、使い回されないのがこの表の一番の主張です。

#書名著者 出典数大学数 刊行出題年

1位『What I Wish I Knew When I Was 20』(Tina Seelig, 2009)は16件・15大学。スタンフォードの起業家教育の本で、平易・具体的・エピソード中心という入試向きの条件を全部満たしています。刊行2009年の本が2025年入試でも使われている点にも注目。
『Active Skills for Reading』『Reading Explorer』は大学English授業用のリーディング教材で、入試問題の一定量は「大学英語教材」から採られていることを示しています。

05

鮮度調査 ① 年単位

出題年から執筆年を引いた「ラグ」の分布です。入試は1〜2月に実施されるので、前年に書かれた文章のラグは1年になります。ラグ0年(=入試と同じ暦年に発表)はほぼ存在しません。

ラグ中央値(年)
平均(年)
1年以内
3年以内
10年以上

記事と書籍でまったく違う

この分布はひとつの山ではなく、「1年に集中する記事」と「10年前後まで広く散る書籍」の二層が重なったものです。ここを分けないと平均5.9年という数字は意味を持ちません。

種別件数中央値平均1年以内3年以内10年以上
1NEWS / MEDIAN LAG (YEARS)

新聞記事は「前年」で固定

日本の英字紙は3年以内が92%、10年以上はわずか1%。英米紙も3年以内86%。新聞から採るなら直近1〜2年しか見ないという運用がはっきり出ています。

7BOOKS / MEDIAN LAG (YEARS)

書籍は10年選手が4割

一般書籍は中央値7年、10年以上前の本が41%。1年以内はたった7%です。書籍は「新刊だから選ぶ」のではなく、読み継がれている本から選ばれている

4ELT TEXTBOOKS / MEDIAN (YEARS)

大学英語教材は中間

南雲堂・金星堂・Cengage などの大学英語教材は中央値4年。改訂のたびに新しい版が使われるため、一般書籍より新しく、新聞よりは古い位置に来ます。

06

鮮度調査 ② 月単位

出典に日付まで書かれている記事に限れば、発表年月から入試実施年月までを「か月」で測れます。対象はの記事。ここが今回いちばんはっきり出たところです。

中央値(か月)
3か月以内
6か月以内
12か月以内
24か月以内

ピークは9〜10か月前。3か月以内はわずか0.5%、6か月以内でも5.7%しかありません。入試直前に話題になった記事は、まず出ないということです。逆に言えば、1年前〜1年半前の記事がいちばん危ない

発表された「月」で見ると

同じデータを、記事が発表された暦月で並べ直したものです(ラグ18か月以内)。入試は1〜2月ですから、「前年の4〜6月」に発表された記事がもっとも多く選ばれていることになります。作問・校正のスケジュールがそのまま影を落としている、と読むのが自然でしょう。

媒体ごとの鮮度

同じ「新聞・雑誌」でも、どれくらい新しいものを使うかは媒体で違います。件数20件以上の媒体だけを並べました。

#媒体件数中央値(か月)6か月以内12か月以内

The Japan News(読売)と Nikkei Asia は12か月以内が6〜7割でもっとも新作志向。逆に The Atlantic は中央値18か月・12か月以内33%と、雑誌の中でも「寝かせて使う」タイプです。Scientific American も中央値15か月。科学系の読み物は速報性より内容で選ばれているということでしょう。

この10年で、選ばれる記事は少し古くなった

年ごとに見ると、2009〜2015年は中央値10〜11か月、2020〜2025年は12〜14か月。わずかですが一貫して間隔が伸びています。作問が以前より早い時期に固まるようになった——そう読むのが自然でしょう。受験生の側から言えば、狙う時期は「1年前」よりもう少し前倒しです。

入試年件数中央値(か月)最頻(か月)中央値
07

難関14大学の出典傾向

英文難易度ランキングで扱っている14大学について、出典の書き方を調べました。まず分かったのは、そもそも出典を印刷するかどうかが大学によって天と地ほど違うということです。

大学長文大問出典あり明記率 出典数うち新聞
雑誌記事
うち
日本語
ラグ中央値1年以内よく使う媒体
0TODAI / KYODAI

東大・京大は一切書かない

収録された東大62大問・京大33大問のすべてに、出典表記が一行もありません。一橋(2.2%)・神戸(1.0%)・九州(4.9%)・札幌医科(3.3%)も実質書かない側。出典から傾向を読む手は、この5校には使えません

92NAGOYA / % WITH SOURCE

名古屋大・東北大は必ず書く

名古屋大は長文大問の91.7%に出典があり、東北大も86.2%。この2校は出典から出題傾向を具体的に追えます。名古屋大は「出題の都合上,原文の一部に変更を加えている」という定型文まで毎回同じ。

1NAGOYA / MEDIAN LAG (YEARS)

「新作派」と「蔵書派」

名古屋大・筑波大はラグ中央値1年でほぼ前年の記事から出す。対して大阪公立大は中央値8年、北海道大7.5年、弘前大7年で、書籍中心の「蔵書派」。同じ国公立でも作問の発想が違います。

10TOHOKU / 75 FROM NEWS

難関大の出典は新聞ではない

東北大の75件のうち新聞・雑誌記事はわずか10件。残りは学術書の一章("… in Black Athena Revisited")や単行本です。さらに18件は日本語の文章——和文英訳・要約の課題文で、森岡正博や酒井邦嘉の新書が使われています。大阪公立大も81件中17件が日本語。中央値8年という「古さ」は、日本語の新書を使うことの裏返しでもあります。

注意:明記率の分母は「1,500字以上の英文を含む大問」の数(2009-2025累計)です。出典を書かない大学の英文が「どこから来たか分からない」だけで、出典が無い=オリジナルという意味ではありません。「うち新聞雑誌記事」は本稿の媒体辞書に載っている媒体名が特定できた件数で、学術誌・専門書はここに入りません。「うち日本語」は著者名または書名が日本語のもの(和文英訳・要約の課題文を含む)。
「東京科学大学」は東京工業大学・東京医科歯科大学の、「大阪公立大学」は大阪市立大学・大阪府立大学の分を合算しています。

08

まとめ:受験生が使える形にすると

9MONTHS BEFORE

読むなら「1年前の記事」

出題される記事のピークは入試の9〜10か月前。直前期に時事英語を追いかけても、それが出る確率はほぼゼロです。高3の春から夏(=入試の9〜10か月前)に出た英文が、翌年の入試でいちばん狙われます。

5MEDIA COVER MOST

媒体は5つに集中する

The Japan Times / The New York Times / The Guardian / BBC / The Japan News の5つで媒体判明分の4割強。科学寄りなら Scientific American と National Geographic を足せばほぼ足ります。

41% OF BOOKS 10Y+

本は新刊を追わなくていい

書籍出典の41%が刊行10年以上。新刊を追うより、David Crystal・Harari・Gladwell・Seelig のような「入試で実績のある定番」を1冊読み通すほうが効率的です。

・データ範囲:2009〜2025年度の大学入試英語(大問単位)。出典表記のある行を機械抽出し、件を構造化しました。 ・執筆年が特定できたのは件(%)。「a work by ○○」のように年を書かない形式の出典があるためです。ラグの集計はこの範囲に限ります。 ・媒体・出版社は表記ゆれを正規化しています(例:The Japan News / 読売新聞社 / The Yomiuri Shimbun は同一)。通信社クレジット(Kyodo, AP など)と掲載紙が併記されている場合は両方を数えています。 ・著者名・書名の抽出は自由記述からの推定を含むため、下位には誤りが混じります。掲載しているランキング上位は目視確認済みです。 ・出典を書かない大学の英文は集計に入りません。本稿の「ランキング」は、あくまで出典を明記した入試英文の中での順位です。