繰り上げ
He is likely to come.
- There
- 1.0 – 9.8 %
- it that
- ○ or ×
- it to
- 中
likely, unlikely, certain, sure, apt, liable, about, due
23.77億語 / 1億6,457万文 全数走査
There テストと It 書き換えは、同じものを測っていない。バランス英語コーパス全文で、繰り上げ述語とコントロール述語がどこで割れるかを実測した。
There seems to be a problem.
*There tried to be a problem.
01 — 定義
主節の主語(または目的語)の位置に立っている名詞句が、その主節述語の意味上の項ではなく、後ろの不定詞節の主語であるもの。
seem の意味的な項は「Tom が遅れているという命題」ひとつだけ。Tom は seem の項ではない。だから seem は Tom に意味役割を与えない ── ここがすべての出発点。
Tom は believe の目的語位置に立つが、意味的には「Tom が正直だ」という命題の主語。主節述語は目的語にも役割を与えていない。
Tom tried to be late. の Tom は、try の主語(意志の持ち主)でも be late の主語でもある。二重の役割を持つ。統語的には Tom tried [ PRO to be late ]。この一点の違いが、以下すべてのテストの差を生む。
02 — 二つのプローブ
存在文の there は指示対象を持たない虚辞。中身が無いので意味役割を受け取れない。役割を与えない述語(raising)なら置けるし、与える述語(control)なら与える相手が無くて破綻する。
つまり 「主語が意味役割を持っているか」を直接測っている。同じ原理で天候の it(It seems to be raining.)とイディオムの塊(The cat seems to be out of the bag.)も使える。
この書き換えは二つを同時に要求している。(a) 述語が命題1項述語であること(=繰り上げの条件)、(b) その述語が that 節を補文に取れること(=純粋に語彙的な性質)。
(b) が独立しているので、両側に穴が開く。繰り上げなのに It 不可(tend / used to / ought to / have to / be about to)。It 可なのに繰り上げでない(It is possible that S / He is easy to please)。
結論の形:There テストの失敗は繰り上げの反証になるが、It 書き換えの失敗は反証にならない。ズレるのが正常で、ズレ方そのものが述語の性質を教える。
03 — 実測
横軸は there PRED to be ÷ PRED to be(対数)。繰り上げ述語は 1〜33%、コントロール述語は 0〜0.18% に固まり、あいだの一桁半が空く。
spaCy は場所の there をときどき存在の EX と誤タグする。コントロール述語に付いた僅かなヒットは、実例を全部読んだ結果例外なくこれだった。
いっぽう繰り上げ側のヒットは、低頻度のものまで全部本物だった。
だから 0 か 1 かではなく「桁」で読む。ゼロ件は非文の証明ではなく、繰り上げ述語でも to be が意味的に来にくければゼロになる。
04 — V to do
% は there V to be ÷ V to be。it that は it V that … の実数(100万語あたり1.0件=2,377件以上で ○)。
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| V to do | frame | to be | there | % | There | it that | It | 判定 |
|---|
※ get to の 807 件のうち約 720 件は there's got to be のクリティック変異形('s が be に原形化されなかったもの)で、実体は have got to。素の get to do の There ヒットは約 85 件。
05 — be ADJ to do
三つの列(There 通過率・it … that・it … to)の組み合わせが、そのまま構文の指紋になる。
He is likely to come.
likely, unlikely, certain, sure, apt, liable, about, due
He is easy to please.
主語は please の目的語。繰り上げではない。easy, hard, difficult, impossible, safe, nice
It is possible that S.
NP + to do の繰り上げ枠が存在しない。possible, important, clear, obvious, true, necessary
He is eager to come.
able, ready, willing, eager, reluctant, anxious, prepared
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| be ADJ to do | frame | to be | there | % | There | it that | it to | 型 |
|---|
certain は There 5.80% + It is certain that 1,244 件で両方 ○。sure は There 9.79% と最強なのに It is sure that は 124 件しかない。同義に見える二語が、補文選択だけで割れている ── It 書き換えが繰り上げの判定に使えないことの、いちばん綺麗な実例。
be able to は繰り上げではない。 8,800 件の able to be に対して there ヒットは 2 件(ノイズ床)。意味が助動詞的でも統語はコントロール。
06 — be Vpp to do
ECM 動詞の受動はそのまま繰り上げになる。目的語コントロール動詞の受動はならない。同じ be + 過去分詞 + to do の形をしていて、There テストが機械的に割る。
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| be Vpp to do | frame | to be | there | % | There | it that | 判定 |
|---|
07 — 目的語繰り上げ
主語の There テストが効かない ECM は、目的語の There テストで確定する。V + there + to VB を全数数えた結果がこれ。
V there to VB — 実測ヒットあり
V NP to VB は莫大 — うち there は 0
0 / 611,912
目的語コントロール動詞10語の V NP to 総数に対する there ヒット
理論が予測する完全な二分。I want there to be peace. は言えるが *I persuaded there to be peace. は言えない ── persuade は目的語に「説得される人」の役割を与えるから。
08 — 主語で切り替わる動詞
ここまでは「述語で決まる」話だった。だが begin / threaten / promise / continue などは1つの述語のなかに両方の文法が同居し、決め手は主語(と補文)に移る。全 23.77億語で、各動詞の主語を「事態・無生物」と「動作主」に振り分けた。無生物の判定はコーパス自身から ── その名詞が control アンカー(try/want/decide…)とraisingアンカー(seem/tend…)のどちらの主語に立ちやすいかで agentivity を測り、閾値で振った。
主語は動作していない。述語は「〜しそうだ/〜し始める」と文末助動詞に落ちる。
主語は動作主で、述語が文の主要述語のまま。「脅した/約束した/〜し始めた」。
| 動詞 | n | 無生物% | 動作主% | be補文% | 状態補文% | there | 既定の読み |
|---|
※ 無生物% は there+天候it+非動作主名詞。状態補文% は to be / to feel / to seem … の割合で、高いほど raising と相性がよい。agentivity は語彙由来(`subj_agentivity.tsv`)。
09 — 例外の整理
いちばん大きい塊。It 書き換えの失敗が繰り上げの反証にならないことの実証で、しかもこれが受験英語の頻出語群と完全に重なる。
繰り上げ述語は定義上、主語に意味役割を与えない。つまり語彙的な中身がもともと薄く、そのまま純粋な文法オペレータ(法・時制・相)に転じる素地を持っている。この列は、英語史で実際にそう転じた語の集まり ── 助動詞化した繰り上げ述語です。
| have to / have got to | 義務の法助動詞(≒ must) |
| be going to | 未来時制(≒ will) |
| used to | 過去習慣相 |
| ought to / be to | 法助動詞そのもの(ought は既に MD タグ) |
| be about / bound / apt / liable / due / set to | 法・未来の迂言形 |
| begin / start / continue / cease / keep | 相(phase)動詞 |
| tend to | 習慣相 |
助動詞は that 節を取らない。 *It must that he is here. が言えないのと同じ理由で *It tends that S も *It ought that S も言えない。助動詞は節ではなく VP と結びつく機能語だからです。いっぽう seem / appear / happen / turn out / be likely / be said は繰り上げでありながら語彙動詞・形容詞のままで、命題を項に取るので that 節で綴れる。
隣り合う二列が別の次元を測っている。ズレは矛盾ではなく二次元の座標です。見分けるのに暗記は要らず、法助動詞ひとつか相の副詞ひとつで置き換えられるかで切れる ── have to→must / be going to→will / ought to→should / be apt to→may well / tend to→usually。置き換えられれば助動詞の仲間で、It 書き換えは無い。
It が × になる理由が助動詞化ではない少数の別口だけ、個別に覚える価値があります。①補文標識が that でないだけ(look / sound / feel ── It looks as if S は普通)。②that 節はあるが別語義(be supposed to の義務用法 vs 伝聞の It is supposed that 312件)。③be sure to の二面性(命令用法 Be sure to lock the door. はコントロール ── certain と割れるのはこれが原因)。
have to 12,785 vs 75 ・ be going to 28,254 vs 32 ・ need to 5,051 vs 28 ・ used to 2,292 vs 11 ・ ought to 906 vs 0 ・ have got to 5,496 vs 67 ・ be bound to 946 vs 0 ・ tend to 319 vs 0 ・ continue / begin / start / cease ・ be about to 114 vs 61 ・ be apt to 40 vs 27 ・ be liable to 22 vs 1 ・ be sure to 242 vs 124 ・ be to 2,275 ・ look to 115 vs 139
述語の意味が「出来事」を要求するため、to be との共起そのものが起きにくい。頻度ゼロは非文の証明ではない。受動化テスト(The police seem to have arrested Tom. ≡ Tom seems to have been arrested by the police.)で確定する。
want / expect / believe / consider / find / know / allow / cause / need / like は主語が主節述語の項なので、主語の There テストは無意味。目的語の There テストで確定する(§07)。ここを「主語で試して立たないからコントロール」と処理すると全部取り違える。
10 — 存在文の動詞
BE がこの構文の 89.4%(450万件 / 504万件)。残りの大半は繰り上げ述語(going to / seem / have to / appear / need / used to …)で、純粋な存在動詞は全体の1%未満しかない。そして残った動詞は、綺麗に二群に分かれる。
exist は 17,925 件のうち学術 14,542 / 話し言葉 519 ── 28 対 1。remain・arise・follow もレジスターが学術に寄る。
come / stand / live / lie / sit / rise / spring / hang / ensue / emerge は小説と字幕に集中する。存在の提示ではなく場面の導入。
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| there + V | 件数 | 100万語 | 話し言葉 | 学術 | 性格 |
|---|
11 — 教材へ
機械的に書き換えを教えられるのは There ○ かつ It ○ の群だけ。 seem / appear / happen / turn out / prove / be likely / be unlikely / be certain / be said / believed / thought / known / reported / expected / estimated / found / shown。
tend to / used to / ought to / have to / be about to / be apt to は「It 書き換えできない繰り上げ」。 「書き換えられないから繰り上げではない」と教えると誤り。
be easy / be difficult は繰り上げではない(tough 構文)。 He is easy to please の He は please の目的語。It is easy to please him との対応を「繰り上げ」と説明しないこと。
be able to も繰り上げではない。 There テスト 8,800 件中 2 件(ノイズ床)。意味が助動詞的でも統語はコントロール。
目的語繰り上げの識別は V there to be が一発。 want / expect / believe / consider は可、tell / ask / force / persuade / encourage は 61万件中 0 件。
繰り上げの訳出で起きているのは主語の消滅ではなく、述語が2段になり、主節述語が下の段(文末の助動詞)に落ちること。訳文の主述語は不定詞側が担い、主語はその主語としてそのまま残る。日本語にちょうど同じ装置(〜ようだ / 〜そうだ / 〜がちだ / 〜だそうだ / 〜にちがいない)があるので、構造保存的に訳せる。
| 英語 | 訳 | 主節述語の行き先 |
|---|---|---|
| He seems to be ill. | 彼は病気のようだ | 文末の助動詞へ |
| He tends to be late. | 彼は遅刻しがちだ | 文末の助動詞へ |
| He is said to be rich. | 彼は金持ちだそうだ | 文末の助動詞へ |
| The dam threatens to burst. | ダムは決壊しそうだ | 文末の助動詞へ |
| He has to be ill. | 彼は病気にちがいない | 文末の助動詞へ |
| He tried to be quiet. | 彼は静かにしようとした | 主述語のまま(コントロール) |
主語が訳文から消えるのは虚辞とイディオムの塊のときだけ ── There seems to be a problem.=問題があるようだ/It seems to be raining.=雨が降っているようだ/The cat seems to be out of the bag.=秘密が漏れたようだ。これは例外ではなく、There テストがまさにその点を突いているから。診断に使う文だけが「主語が訳に出ない」文で、普通の文では出る。
したがって誤訳の分岐点も主語ではなく、主節述語を文の述語として立てるか、文末の助動詞に落とすか。実際の誤訳はここに集中する ── ×「ダムは決壊すると脅す」/×「彼は金持ちだと言われた(過去に誰かに言われた)」/×「彼は簡単に喜ぶ」(He is easy to please は tough 構文)/He doesn't seem to be happy. は「幸せでないようだ」であって seem の否定ではない。