balanced_english_corpus・23.77億語・全数走査
「言った内容」や「先に起きた出来事」を、英語は過去完了(had done)や完了不定詞(to have done)、 完了動名詞(having done)でわざわざマークすることがある。だが実際にどのくらいの頻度で、 どの動詞で使われているのかは、教科書のルール説明だけでは分からない。 23.77億語のコーパス(小説・字幕・ニュース・論文・インタビュー書き起こしなど12種の文章を集めたもの)を 機械的に全数走査し、実例の分布を数えた。
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say・hear・tell・think・know・realize・feel・see・decide・admit・remember・discover・claim・insist・understand・ suspect など、「思う・伝える・気づく」を意味する動詞はほぼ全て同じ形をとる。特定の動詞に限った特殊ルールではなく、 「命題を目的語にとる動詞」全般にゆるく効いているふるまいだと分かる。
matrix=過去形の伝達動詞のみを集計。zero-that%= that を省略した割合。過去完了率(%)= that節の動詞が 単純過去(PAST)か過去完了(PAST_PERFECT)だったケースのうち過去完了だった割合。列見出しをクリックすると並べ替え。
伝達動詞が過去形でも、that節の中身は「単純過去のまま」が最も多い動詞がほとんど。過去完了になるのは say で9.1%、think で5.9%、hear で9.5%程度。realize(19.9%)・remember(30.7%)・announce(53.3%)のように 高い動詞もあるが、これは動詞の意味そのもの(remember は本来「昔のことを思い出す」動詞、announce は 「事後にすでに起きた事実を発表する」動詞)がそうさせているだけで、規則として過去完了が強制されているわけではない。 さらに、say/think/know/hear は「話し言葉」に近い文章ほど that を省く割合が高く(think 89.7%・know 73.2%)、 口語ではもともと「that節」という認識自体が薄いことも分かる。
「He said he was happy. / He said he had been happy.」のような状態の文と、「He said he met John. / He said he had met John.」のような出来事の文とでは、過去完了の使われ方に違いがあるかを調べた。 埋め込み節の述語を be+形容詞・名詞(状態、was happy型)、know・love・want のような状態動詞(状態)、 それ以外の動詞(出来事、met/arrived型)の3つに分類した。
伝達動詞が過去形で、that節が単純過去か過去完了のもの。動詞ごとに200件以上のみ。
単純に集計すると、過去完了になる割合は状態(be+形容詞・名詞)3.4%、状態動詞2.0%に対し、 出来事は21.0%と大きく開く。だがこの比較には落とし穴がある。状態の文は、そもそも 「言った時点でもまだそうだった」という同時読みが大半を占めているからだ。同時のことを 同時に言っているだけの文が分母に大量に入っているので、「前のことを言うときに印を付けるか」 という問いの答えにはならない。
そこで、接続詞そのものが前後関係を確定させている文だけを取り出した。 「after X, Y」なら X は必ず Y より前、「X before Y」「by the time Y, X」なら X が必ず前になる。 こうした文では同時読みが原理的に成り立たないので、状態と出来事を同じ土俵で比べられる。
前後関係が確定している側の節について、単純過去のままか過去完了かを集計。 「前後関係が確定」=状態でも出来事でも先行が保証される接続詞、 「確定しない」=下の説明のとおり、状態のときだけ先行にならない接続詞。
前後関係が確定している after・before・until では、状態と出来事の過去完了率がほぼ完全に一致する。 after は状態10.79%対出来事10.81%、before は7.25%対6.82%、until は4.44%対4.58%。文頭・文中の位置で 分けて数え直しても6通り全てで数ポイント以内に収まり、状態が高い場合も出来事が高い場合もあって 一方向には偏らない。つまり「本当に前のこと」だと分かっている文脈に揃えると、状態か出来事かは 過去完了を使うかどうかに影響しない。最初の3.4%対21.0%という差は、その大部分が 「状態の文は同時読みが多い」という分母の中身の違いだったことになる。
残りの by the time・once・as soon as では差が残るが、実例を見るとこれも同じ理由だった。 「He was probably dead by the time he hit the water.」「By the time that they left, it was too late.」のように、by the time の主節が状態のときは、その状態は基準時点で成立していて、 その前に終わってはいない。once も「Once the ceremony was complete」のように状態への移行点を 指しており、「前に終わった状態」ではない。これらは前後関係を確定させる接続詞に見えて、 状態を相手にしたときだけ先行の意味にならない。残った差は新しい発見ではなく、 除いたはずの同時読みが別の形で戻ってきているだけだと分かる。
教える側から見ると、結論は次のようになる。「He said he had been happy.」と 「He said he had met John.」のどちらがより本物らしいか、という問いには英語は答えを持っていない。 使用率で見れば両者は同じ扱いを受けている。違うのは印を付けなかったときに何が起きるかで、 met は世界の常識から前のことだと分かるのに対し、was happy は同時とも前とも読めてしまう。 過去完了は前者では省いても困らず、後者では曖昧さを解く働きをする。ただし 「解く働きがあるから状態のほうがよく使われる」という事実はデータには無い。
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接続詞ごとに、2つの節の組み合わせのうち「どちらかが過去完了」になっている割合を数えた。 先に断っておくと、before・after は Universal Dependencies系の品詞タガーでは前置詞(ADP)と 同じ品詞タグが振られ、"before the war" も "before he arrived" も区別されない。今回は「文の切れ目 (句読点)にぶつからずに、両側で主語+定動詞のペアが検出できたケースだけ」を数えており、 "before the war"のような前置詞用法は自動的に除外される。
n=両方の節が「過去系(単純過去・過去完了・過去進行・過去受動)」だったペアの総数。 その中で少なくとも片方が過去完了だった割合。
by the time 節を含む文で実際に出現した(主節の時制, by the time節の時制)の組み合わせ上位6件。
「先に起きた方を過去完了に」というルールが最もよく当てはまるのは by the time (25.4%) で、 次いで after (12.5%)・once (13.0%)・before (9.6%)。ただし、これらでも大半(70〜90%)は 両方とも単純過去のまま。when は6.9%、while は7.0%ともっとも低く、「同時に起きていること」を 表す使われ方が主だからだと考えられる。教科書のルールは「使ってよい・使うと分かりやすい」形であって、 「使わないと間違い」という意味での必須ルールではないことが数の上でも裏付けられる。
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it is said/believed/thought/reported/rumored/alleged/estimated/known/expected など(受動態)と、 seem/appear/happen/prove/tend/turn out など(能動のraising動詞)について、それに続く 不定詞が to do(単純)か to have done(完了)かを動詞ごとに集計した。raising動詞というのは、 seem のように主語に意味的な役割を与えず、埋め込み節の主語をそのまま外側に「繰り上げ」ているだけの動詞のこと (It seems that he is honest. ≒ He seems to be honest. で、honestなのは he であって seem の主語ではない)。 これは try/want のような、主語に意味的な役割を与えたうえで埋め込み節の見えない主語を「制御する」 control動詞と対比される、統語論の分類。
perfect%= to have done / to have been done / to have been doing の合計が、不定詞全体(to do・to be doing・ to be done・to have done系)に占める割合。n≧200の動詞のみ。frame: PASSIVE_SAY=is/was 動詞のPP + to ...、 ACTIVE_RAISE=seem/appear型の能動 + to ...。
この構文は「動詞によって完全に挙動が違う」のが特徴。allege(74%)・fear(38%)・say(26%)・believe(24%)・ understand(21%)・report(20%)のように「誰かが主張した過去の事実」を意味する動詞は完了不定詞にかなり傾く。 一方で expect(0.3%)・come(0.0%)・tend(0.2%)・prove(能動, 0.3%)のように「これからの予測・傾向」を 表す動詞はほぼ完了不定詞をとらない。つまり「完了不定詞が必須かどうか」は文法規則というより、 動詞の意味が「もう起きたこと」を指しているかどうかで決まる。テーマ1の伝達動詞よりもこちらの方が、 動詞ごとの差がはっきりしている。
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n≧80の頭語(head)+前置詞のみ。perfect%= having done の割合。
TARGET=admit・deny・forget・regret・remember・recall・confess・acknowledge・resent・mention (時制のずれを表しうる動詞)。CONTROL=enjoy・keep・consider・suggest・avoid など(通常はずれを表さない動詞)。 perfect%= having done の割合。
二つのグループの差は非常にはっきりしている。CONTROL側(enjoy・keep・consider・suggest・recommendなど)は having done がほぼ0%(大半が0.00〜0.05%)。これらの動詞は「同時か、これからのこと」を意味するので、 そもそも時制をずらす場面がほとんどない。対してTARGET側は regret(9.5%)・confess(7.1%)・deny(6.2%)・ acknowledge(5.4%)のように明確に高い。ただしTARGET側でも having done は少数派(9割以上は doing のまま)で、 admitted kidnapping ... years ago のように、doing のままでも文脈(あとに続く yesterday / ago など)が 時間差を示せば having done は省かれる。「時制のずれをdoingでも表せる」ことと「having doneという専用の 形もちゃんと存在し、動詞の意味に応じて使用率が変わる」ことの両方が、データから確認できる。
まとめ
ここまでの4つのテーマを、「印を付けないと困るか」という一点で並べ直す。 比べ方を揃えるため、可能なかぎり「前のことだと確定している文脈」だけを取り出して、 そこで実際に完了形が使われた割合を出した。文脈の確定には、接続詞(after/before/until)か、 節の中の先行性を示す副詞(yesterday・earlier・previously・ago・last year・in 1998 など)を使っている。
「使用率」=完了形(had done / to have done / having done)が使われた割合。列見出しで並べ替え可。
is said to have left のように補文が出来事のとき、先行性が明示された文脈では
71.5%が完了不定詞になる(そうでない文脈では23.5%)。しかもこの71.5%は
過小評価で、残った単純不定詞の実例を22件確認したところ約半数は副詞が
別の場所にかかっている誤検出だった(「reported to be a variable star … in 1927」の1927は
報告した年、「thought to descend from a forerunner that appeared 4 billion years ago」の
agoは関係節の中)。実質はさらに高い。
理由ははっきりしている。不定詞には時制がないので、to leave と言った瞬間に
「同時か、これから」の意味に固定されてしまう。過去の意味を出す手段が
to have left しか存在しない。ここだけは書き換えの練習をする価値がある。
同じ完了不定詞でも、補文が「be+補語」の状態だと話が変わる。先行性の副詞があっても
完了不定詞になるのは15.3%で、副詞がないとき(12.9%)とほとんど変わらない。
was estimated to be around 500 in 1998・reported to be the most important
sources of information in 2004 のように、単純不定詞のまま過去の時点を指すのが普通。
状態は「その時点で成立していた」と言えばよく、完了形にする必要がない。
接続詞が前後関係を確定させている文脈でも、過去完了が使われるのは after で10.8%、 before で6.8%、until で4.6%。9割前後は単純過去のままで済ませている。 単純過去には先行の読みが残っているので、接続詞や文脈が順序を示していれば印は要らない。
ここは「まとめて何%」と言ってはいけない場所だった。前置詞+動名詞をひとまとめにすると1.2%程度になるが、
その数字は accuse of(59,047件)・thank for(63,584件)・capable of(48,584件)
のような件数の多い低率語に引きずられていて、実態を隠してしまう。頭の語ごとに分けると三段階になる。
回顧型 12.7%(proud of・ashamed of・aware of・conscious of・grateful for・boast of)。
これは過去完了を after節で使う率(10.8%)より高い。この語群では
doing のままだと「同時」の意味と競合するため、印が実際に仕事をしている。
he was aware of fiddling with his bow tie(今それをしている最中)に対し
peter was aware of having said the same thing once(前に言ったことに気づいている)。
conscious of creating a scene と
conscious of having gained a tremendous victory も同様に読みが違う。
語が過去を確定させる型 1.2%(accuse of・thank for・blame for・forgive for・guilty of)。 「非難する」「礼を言う」対象はすでに起きたことに決まっているので、印を付けても情報が増えない。 非過去型 0.04%(capable of・interested in・tired of・afraid of・fond of)は 能力や好みの話で、そもそも過去の出来事を指さない。
admit・deny・regret 直後の動名詞(2.0%、先行性の副詞があっても3.5%)は
真ん中の型にあたる。admit 自体が「すでにやったこと」を意味するので、
admitted kidnapping her all those years ago のように単純形のままで足りる。
なお回顧型は件数が少なく(合計2,692件)、先行性の副詞と共起する例が数件しかないため、 不定詞で行った「副詞で条件付けた比較」がここではできない。上の12.7%は条件なしの数字で、 条件なし同士で比べるべき相手は出来事の完了不定詞23.5%になる。
必ずやる:完了不定詞(出来事)= is said to have done。代わりの言い方がない。
意味が変わるときだけ:過去完了、および proud / ashamed / aware of having done。
前者は順序が文脈で分かるなら単純過去でよく、後者は「同時」と読ませたくないときに効く。
作らせなくてよい:admit / accuse of / thank for の完了動名詞。
語自体が過去を含むので doing のままが英語の既定。
ローカルに構築した23.77億語の英語コーパス(balanced_english_corpus)を対象に、spaCy(en_core_web_sm)で 品詞・レンマ付与済みの全16,457万文を1パスで走査した。内訳はOpenSubtitles・現代小説(BookCorpus)・ CC News・Wikipedia・Common Crawl・Reddit・PMC論文・arXiv抄録・Gutenberg・インタビュー書き起こし (MediaSum)・自然発話書き起こし(Spoken BNC2014等)の12ソース。文語だけでなく話し言葉も多く含む構成。
構文解析(依存構造)は行っておらず、品詞タグの並びから「主語らしきものを飛ばして最初の定動詞を探す」 「to のあとの助動詞連鎖を追う」といった規則ベースのパターンマッチで判定している。したがって縮約文 ("after learning that a blend was...")の中に埋め込まれた分詞構文を主節の動詞と取り違えるなど、 一定のノイズが残る(この場合は「非定形(NONFINITE)」に分類され、時制の集計からは除外される)。 パーセンテージは目安であり、厳密な文法的判定ではない。
走査結果の一部は、コーパスの全文検索(FTS)による単純なフレーズ一致件数と突き合わせて桁が合うことを確認した (例: "said to have" の完全一致 11,765件に対し、say governor の to have 系(全パターン合計)10,554件、 再現率約90%)。